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最高裁判所大法廷 昭和31年(あ)1540号 判決 1958年7月16日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐伯千仭の上告趣意第一点について。

国鉄職員は国家公務員として、また本件京都市電バス従業員は地方公務員として、両者等しく昭和二三年政令二〇一号の適用を受けていたのであるが、前者は、国家公務員法の第一次改正により、昭和二三年一二月三日以降、争議行為を禁止され特定の違反行為のみを処罰されるが右政令二〇一号の適用を排除されることとなり、さらに同二四年六月一日日本国有鉄道法の施行により、同日以降、国家公務員法の適用を除外されるとともに、その労働関係については公共企業体等労働関係法により律せられることとなり、その争議行為は禁止されるが右につき罰則はないことになった。他方、本件市電バス従業員は、地方公務員法が制定されたけれども同法附則七項、二〇項の規定により依然として右政令二〇一号の適用を受けていたが、昭和二七年一〇月一日から、地方公務員の身分を保有しながらその労働関係については地方公営企業労働関係法により律せられることとなり、その争議行為は禁止されるが、右につき罰則はなく同時に右政令二〇一号の適用を排除されることになったのである。すなわち、両者は、昭和二七年一〇月一日以降現在においては、争議行為が禁止されこれについては等しく罰則がないことになったのであるが、関係法令の制定、改正が時を異にして行われたため、その過程において、国鉄職員については既に争議行為につき罰則の適用がなくなっているのに、本件市電バス従業員については、争議行為につき罰則の適用がある時期が存することとなり、本件は正にその期間に行われたとされる事犯である。

思うに、両者の身分関係および労働関係の分野について、企業の主体、組織規模、性質、会計経理、労働条件その他の具体的事情に即し、これを原判決説示のような別個の法体系の規律に属せしめることは、立法政策に委されているものであり、右両者の法体系の設定、改正が、その立法の準備、研究その他諸般の事情により、同時に行われなかったため、ある時期において、両者の労働関係に対する罰則の適用について差異が生じたからといって、これを以って直ちに、所論のように、不合理な差別的取扱をしたものであって憲法一四条に違反するものであるということはできない。されば原判決は結局正当であって、所論は採るを得ない。

同第二点について。

所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例は、本件に適切でないから、採るを得ない。

弁護人菅原昌人の上告趣意第一点について。

昭和二三年政令二〇一号、従って、同令三条は、昭和二〇年勅令五四二号に基く命令であって、その命令の具体的内容は、マックアーサー元帥書簡の要求を実現するために必要なものとして連合国司令部が指示したものであると認められることは、当裁判所判例の示すところであるから(昭和二四年(れ)六八五号同二八年四月八日大法廷判決刑事判例集七巻四号七七五頁以下、同二四年(れ)一九一八号同三〇年一〇月二六日大法廷判決同九巻一一号二三一三頁以下参照)、所論は、採るを得ない。

同第二点について。

昭和二三年政令二〇一号施行当時同令二条一項に違反した行為に対しては、右政令の内容が憲法に違反しない限りは、平和条約発効後においても同令三条を適用して処罰すべきものであること、並びに、右政令の規定する内容は何等憲法に違反するところはないのであるから(なお、弁護人佐伯千仭の上告趣意に対する判断参照)、右政令が効力を失う前にした同令二条一項に違反した行為に対しては、平和条約発効後においても、なお同令三条によって処罰すべきものであることは、所論引用の昭和三〇年一〇月二六日大法廷判決(刑事判例集九巻一一号二三一三頁以下参照)の示すところである。されば、所論違憲並びに判例違反の主張は、採るを得ない。

同第三点について。

論旨は、原判決は刑の廃止があった後に行為時法を適用した誤があるというのである。しかし、本件起訴に係る被告人等の所為については、なお昭和二三年政令二〇一号二条一項、三条が適用される旨の原判示は正当である(なお、地方公務員法附則八項、地方公営企業労働関係法附則三項参照)。

弁護人青柳盛雄、同上田誠吉の上告趣意第一点について。

しかし、昭和二三年政令二〇一号は、任命によると雇傭によるとを問わず、国又は地方公共団体の職員の地位にある者に対し等しく適用されるものであることは、同令一条の明定するところであるから、同令の適用について、国家公務員であった当時の国鉄職員と本件京都市電バスの従業員たる地方公務員との間に差異を生ずるものとは解せられない。そして、憲法二八条が保障する権利も公共の福祉のため制限を受けるのは已を得ないところであるから、右政令は、憲法二八条に反しないことは、既に所論引用の当裁判所大法廷判決(同集七巻四号七七五頁以下参照)の示すところであって、いまなおこれを変更すべきものとは認められない。そして、憲法二八条の権利が右のごとく制限を受けるのは已を得ないところであり、しかも、政令二〇一号が現にこれが制限を明定している以上、所論のごとき理由をもって原判決が憲法三一条に違反するといえないことはいうまでもない。それ故、所論は採るを得ない。

同第二点について。

その採用できないことは、弁護人佐伯千仭の上告趣意第一点につき説明したとおりである。

よって、刑訴四〇八条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一)

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